オープンデータとLINEの活用を通してお客様と地域、ホテルの三者でWin-Win-Winな関係を築く 【観光/宿泊:東急ステイ沖縄那覇】
お話を聞いた方:
東急ステイ沖縄那覇 マネージャー 長友 博昭さん
株式会社Link Co-Creation 代表取締役 松島 華恵さん
データを活用しようと思ったキッカケは?
東急ステイ沖縄那覇は2020年2月に壺川で開業した、東急ステイが展開するホテルの一つです。東急を冠するホテルは数多くありますが、東急ステイは「住まいにホテルの機能をプラスする」という発想のもと、洗濯乾燥機や電子レンジ、ミニキッチンを備えた、一泊でも中・長期の滞在でも快適に過ごしていただけるホテルです。
当ホテルは奇しくもコロナ禍での開業となったため、集客の面で厳しいスタートとなりました。2023年5月にコロナは5類感染症に移行しましたが、沖縄県が公表する「入域観光客統計概況」によると、2023年の来沖者はコロナ禍前の2019年に対し、約81%までしか回復しておらず、もっと多くの方に沖縄にいらっしゃって欲しいというのが正直なところです。
このような状況の中、当ホテルはいくつかの課題を抱えていました。
東急ステイは、お客様に日常を旅するように過ごしていただきたいという思いから、ホテル周辺の地域情報を発信する「にちたびプロジェクト」をInstagramで展開しています。しかし、お客様へ情報が届けきれていないのではないかと常々感じていました。
写真:東急ステイのホテルが展開する「にちたびプロジェクト」
ほかに、お客様からの観光情報に関する問い合わせをフロントのスタッフが対応していますが、状況によってはスタッフの負担になることがありました。この業務を軽減し、且つお客様により充実した情報を提供する方法はないかと考えていました。
これらの課題を解決すれば、お客様により喜んでいただくことができ、スタッフのモチベーションが向上し、もちろんお客様の満足度も向上します。ご満足いただけたお客様はきっと、当ホテルのリピーターになってくれるはずです。
この背景のもと、「地域の魅力的な情報を発信して地域の活性化に貢献し、これにより従業員とお客様の満足度を向上させ、結果的にリピーターを獲得する」というグッドサイクルをイメージしました。
これをどうにか実現する方法はないかと考えていたところに、沖縄ITイノベーション戦略センター様からご提案をいただき、県事業を使ってデータ活用の実証に取り組むことにしました。
データから明らかにしたかったことは
当ホテルの抱える課題が解決できるのか、また、イメージしているグッドサイクルを確立できるのか。この点について、オープンデータと、具体的なツールとしてLINEミニアプリを使い、取り組みたいと考えました。
ここで用いたLINEミニアプリは「STAY COUPON by POKEPO」というクーポンサービスです。これは、沖縄県在住者向けクーポンサービス(Webサイト)の「pokepo」をベースとして、LINEで使えるようにしたものです。
写真:「STAY COUPON by POKEPO」を案内する客室のポップ
もともと、「pokepo」はサブスクリプションでクーポンが使える有料サービスです。
今回は、当ホテルのお客様に気軽にご利用いただけるよう、「STAY COUPON by POKEPO」という形で無料で使えるようにしました。実施に当たっては、「pokepo」を運営する株式会社Link Co-Creation様にご協力をいただきました。
写真:東急ステイ沖縄那覇と株式会社Link Co-Creationの強力なタッグ
使ったデータはどのようなものですか
沖縄オープンデータプラットフォームで公開されているオープンデータ「那覇市飲食店新規登録一覧(2023年3月更新)」と、「STAY COUPON by POKEPO」から得られたお客様の利用状況をデータとして使いました。
どのようにデータを活用しましたか
まず、「STAY COUPON by POKEPO」のクーポンとして不足していた、飲食店の情報を拡充する必要がありました。そこで、オープンデータの飲食店新規登録一覧から、クーポンの掲載を交渉する、「交渉先店舗リスト」を作成し、各店舗へ掛け合いました。この結果、効率よく店舗を廻ることができ、那覇市内で新たに5店舗の新規開拓を行い、クーポンを充実させることができました。
次に、「STAY COUPON by POKEPO」をご利用いただいたお客様の利用状況を見てみました。「STAY COUPON by POKEPO」は利用開始時に、お客様の属性情報として「性別、年代、居住地、沖縄旅行回数、同伴者数」を登録していただきます。クーポンを使っていただくことで、どの地域から来沖されたのか、どこでクーポンを使ったのか、どんなクーポンが使われたのかといった、お客様の利用傾向を知ることができました。
例えば、「滋賀県からの来沖ユーザーが、4名の同伴者を伴い、南風原にある大型商業施設内のステーキハウスを利用した」といった形で、クーポンを利用したユーザー個別に利用の状況が分かります。
画像:ユーザー個別にどこでどのようなクーポンを利用したか確認できる。
クーポンの利用率としては宿泊のお客様の15%ほどとなっていました。
宿泊者の地方別に利用状況を確認すると、県内在住の方の利用が圧倒的に多いという結果となりました。通常、サブスクリプションの月額サービスのクーポンを無料で使えるということもあって、県内のお客様には比較的好評だったのだと思います。
画像:宿泊者とクーポン登録者の割合
その他の地域別の傾向として、北海道のお客様は、宿泊数は多いものの利用率が低く、近畿圏のお客様は利用率が高いことなどが見えてきました。
また、コワーキングスペースのクーポン利用なども確認できたことで、観光だけでなくビジネスユースのお客様にもご利用いただいていることもわかりました。
中でも大きな収穫は、お客様の行動範囲を見える化することができたことです。
クーポンが利用された場所を見てみると、当ホテルが那覇市内の宿泊施設ということもあってか、那覇市と近隣市町村に利用が集中しておりましたが、中には北部地域の名護市での利用も確認できました。お客様がどのあたりまで足を伸ばしているのかといったことがわかるようになったことで、移動方法の要となるレンタカーや二次交通の利用案内を充実させることができます。また、行動範囲に応じたクーポン協力店の開拓も行えます。
さらに踏み込んで、クーポンの利用状況から利用頻度の高い店舗(人気店)と、景勝地や観光スポットを線で結んだモデルコースを提案することができます。また、観光だけでなく、ビジネス利用のお客様に向けて、ホテル周辺のコワーキングスペースなど、ビジネス関連施設とタイアップしたクーポンを企画することもできると考えています。
画像:クーポンの利用状況から見える化した行動範囲
また、お客様へのご案内にも変化がありました。
当ホテルにはレストランなどのサービス施設が併設されていないことから、取り組みを始めるまでは1日に3件ほどの近隣飲食店の紹介に関するお問い合わせがあり、平均で1件あたり7〜8分程度のお客様対応時間を要しておりました。
本キャンペーン期間中のお問い合わせは、1日平均1件あるかないかといった状況となっており、平均の対応時間もクーポンサイトの案内を行うだけということで1分未満となっていることから、スタッフの負担軽減に十分に効果があったと考えております。
当社では、「にちたび」と今回の「STAY COUPON by POKEPO」をかけ合わせた価値ある情報提供と施策について、社内で企画の検討と立案に取り組み始めました。抱えていた課題の解決と、イメージしていたグッドサイクルの確立が、実現に向けて動き始めたことを強く感じています。
今後どのようにデータ活用を推進されますか
データ活用の取り組みが有効であることを関係部署、ならびに関係スタッフで共有し、意識の向上を図ります。データ活用が有意義であることを関係する人員すべてが理解することは、今後の取り組みの精度を維持していく上で必要と考えます。また、蓄積されたデータをもとに、「仮説→収集→分析→実証→仮説…」といったサイクルを繰り返し、お客様により満足いただける取り組みを続けていきたいと考えています。目標はお客様と地域、当ホテルの三者によるWin-Win-Winな関係の確立です。
写真:データとツールを上手に活用してWin-Win-Winの関係を目指す松島さん(左)と長友さん(右)
お客様に喜んでいただけるということは、地域の魅力を上手に伝えることができた結果であり、スタッフも幸せな気持ちになります。もっともっとお客様に喜んでいただけるよう、データ活用を通して東急ステイ沖縄那覇ならではの価値をお客様へ提供していきたいと思います。