売上データと人流データの相関関係から戦略を見出す【小売:わしたショップ】
お話を聞いた方:
株式会社沖縄県物産公社 執行役員 店舗事業部部長 渡久地 政和さん
株式会社沖縄県物産公社 店舗事業部 店舗統括課 課長 城間 力さん
データを活用しようと思ったキッカケは?
当社は「わしたショップ」という沖縄物産を取り扱う物産店を全国に展開しています。
県産品展示センターとしてスタートした「わしたショップ」は、食料品をはじめ、雑貨や書籍、CDなど様々な沖縄物産を取り扱い、「アンテナショップ」の草分けとして沖縄の文化を全国に発信しています。おかげさまで直近の1年間では120万人にご利用いただくことができました。
近年ではECにも力を入れており、オンライン(EC)とオフライン(店舗)を融合させ、顧客体験の向上を図るOMO(オンライン マージズ ウィズ オフライン)戦略への取り組みも進めていく必要がありました。
社内のDX推進の観点からも積極的に取り組みたいと考えており、まずはメジャーな観光スポットである国際通りに的を絞り、店舗の利用状況をデータとして可視化することを考えました。
写真:現状についてお話してくださった渡久地さんと城間さん
データから明らかにしたかったことは
当社事業は観光客向けの事業ということもあり、沖縄県の発表する入域観光客数データと売上の相関についての分析は行っておりました。一方で、当社が店舗を構える「国際通り」という狭域の分析は行っておらず、その部分の強化についてが課題となっていました。
国際通り店は全国の店舗と違い、周囲に競合となる同業者が数多くあります。
その中でまず必要だと感じたのは、当社の店舗が国際通りを歩くお客様を取り込めているのかいないのか、ということでした。国際通りの店舗、他県の直営店舗や取次店、オンラインのECサイトなど、お客様との接点、販売チャネルという意味では実店舗もオンラインも同様であり、オンライン・オフライン間でシームレスな誘導施策を行っていく必要があります。
そこで、当社が持つお客様の購買データと国際通りの人流データを比較すれば、オフラインの接点である国際通りの店舗の状況が見えてくるのではないかと考えました。その結果が、今後の施策や販売計画、OMO戦略やDX推進にも影響を与えることは間違いありませ。
このような考えからデータの活用と実証に取り組みました。
使ったデータはどのようなものですか
わしたショップ国際通り店の売上データと、Papilioの国際通りの人流データです。
Papilioは全国の駅や観光スポットの来訪人数や滞在人口の時間別情報、居住エリア毎の情報などを把握することができるWebサービスです。人流データはここから抽出しまし。
どちらもコロナ流行前の2019年(1月~12月)と、沖縄県の全国旅行支援(観光需要喚起策)である「おきなわ彩発見NEXT」が実施された期間を含む2022年(1月~12月)のデータです。
※おきなわ彩発見NEXTの第1期は2022年10月11日から2022年12月27日まで実施。
写真:観光客で賑わう国際通り
どのようにデータを活用しましたか
国際通りの人流について、2022年と2019年のデータを比較すると、2022年の人流は、2019年の約69%であり、コロナ前の水準まで戻っていないことが分かります。
興味深かったのは、店舗の客数・売上と人流データの相関に大きな変化が見受けられたことです。
2022年全体でみると「客数と国際通りの人流」の相関係数が0.78であり、「売上と国際通りの人流」の相関係数は0.77でした。対して2019年はそれぞれ0.54、0.59であり、コロナ前の水準に比べて店舗の客数・売上と国際通りの人流の相関は強まっていることがわかりまし。
その中でも、2022年の10月以降に注目すると、国際通りの人流が回復傾向にある中で、店舗の客数はそれを上回るペースで増加しています。
これは全国旅行支援の「おきなわ彩発見NEXT」による来沖者の増加とクーポン利用によるものと思われます。他の店舗が閉店していく中、歯を食いしばって営業を続け、クーポン加盟店として取り組むなどの努力した結果に結びついたと考えていますが、それをデータからも確認できたことは、とても励みになりました。
画像:人流データから得られる情報が鍵となる
こうした分析のほか、国際通りの人流データから、静岡県から訪れる方が他県全体の水準よりも高いことがわかりました。当社は静岡県にも店舗がありますので、静岡県の店舗で使えるクーポンを国際通りの店舗で配布すれば、帰られてからも店舗をご利用いただけるのではないかと思います。同様に、お客様の多い地域には店舗がありますので、このような施策は全国で展開したいと考えています。
また、人流データから読み取れる客層に合わせて商品ラインナップを強化したり、地元に店舗がないお客様に向けて、オンラインのEC利用をアピールするカタログをレジの目立つ場所に置いたりするなどは、すぐに始められます。
今後どのようにデータ活用を推進されますか
どこからどのようなお客様にお越しいただいているかを知ることは、現状を理解することにつながり、新たな施策を考えるためにも大切なことだと思います。店長会議をはじめ、全社にデータを展開していこうと考えています。
さらに現場となる各店舗が保有するデータと紐づけて展開していけば、時期や客層にあわせた具体的な戦略を打ち出すことができます。
現在、分析結果をもとにして、さまざまな施策の検討に着手しております。
オフラインで発行したクーポンをオンラインで利用できるようにしたり、来客の多い静岡県のお客さまが沖縄を訪れた際に利用できる限定クーポンや、その逆の沖縄発行クーポンを静岡で利用できるようにするなど、お客様との接点をより活性化するための施策で、より多くのお客様に今まで以上に沖縄の商品をご購入いただけるよう取り組んでまいります。
当社の検証結果をご覧いただいた方の中から、当社と協力して共に発展していきたいという企業様が現れれば大歓迎です。連携・協力を通して沖縄の魅力をより広く全国へ伝えることは、まさに沖縄物産の総合商社である当社の使命です。
写真:株式会社沖縄県物産公社は沖縄物産を全国へ、そして世界へと広げていきます
これからは沖縄県の各地域へ旅行者が分散していくと予想しています。各地域と国際通りを結んだ人流データなどが分かるようになれば、その地域の物産を店舗で強化して取り扱うことができますし、各地域の自治体と連携してイベントなどの企画を立てたりすることもできます。
今回の取り組みから、人流データの活用は実に有意義であり、大きな可能性があることを実感しました。